”厄介もの”が豊かな土づくりのための資材として活躍する
- かなざわ森沢山の会 広報GS
- 4月14日
- 読了時間: 5分
腐朽した木や竹、落ち葉を、竹ポーラス炭、糠、籾殻、藁などとともに畑に入れて土作りをする有機農法が注目されている。分解初期には微生物が土中の窒素を消費するため、追加の窒素補給(米ぬか、発酵堆肥など)が必要になる。また完全に埋没させると嫌気環境になり、分解が進みにくくなるため、適度に空気が入るようにする必要がある。腐朽材とともに加える竹ポーラス炭は消し炭のことで、脆いので細かく砕くことができる。多孔質で 土壌中で水分の吸排出をし、肥料分も保持し、植物の必要に応じて提供できる。糸状菌の住処になり、微生物の活動を活発化させる。
最近の例として「菌ちゃん農法」がある。土壌中の細菌を積極的に活かす農法だが、これは決して新しい考え方ではなく、1970年代に興ったパーマカルチャーでも、1960年代から影響を及ぼしている福岡正信の自然農法 / 不耕起栽培も藁や腐朽木で土壌細菌を活性化させることを説いている。日本の伝統農法でも、落ち葉堆肥や藁のすき込みなどで糸状菌の発育を促し、土壌を豊かにしていた。つまり、「菌ちゃん農法」もその本質は自然農法だと言える。農業への興味から里山保全へ向かう人々も増えてくると良いと思う。
森林の手入れだけをやっていると林内にて間伐木や竹、落ち葉を積み上げて残置する事になってしまうけれども、それが溜まりすぎて、継続的な林内作業がやりにくくなる。竹に至っては、住宅街が迫っている場所では騒音や煙が苦情の元なので大型シュレッダーで粉砕したり現場で焼却したりするのが難しい。また里山保全の一環として椎茸栽培に使った榾も廃されると一箇所にまとめて積み上げておくしかなく、これも土に還るのが遅くて幅を取る。 これら糸状菌が着いた有機物をただ地上で積み上げて腐らすだけよりも、土づくりに活かせば循環がスムーズになるし生産性が高まるし、林内作業も安全かつ効率よくなる。見た目にもスッキリし、山火事の火種を減らすことにも繋がりそうだ。
有機農法で有用な細菌には、炭水化物を糖に変える麹菌(アスペルギルス)、糖を分解する酵母、有機物を分解し窒素を固定し病原菌を抑える物質を放出する放線菌(アクチノバクター属)や枯草菌(バチラス属)など、米ぬかや油粕などで活性化するものの他に、特に腐朽した木竹や落ち葉には糸状菌(しじょうきん)が生息し、土づくりに重要な役割を果たす。糸状菌はカビやキノコなどの真菌類に含まれる微生物で、身近な環境に多く存在する。青カビ(ペニシリウム属)や黒カビ(クラドスポリウム属)、発酵を助ける麹菌(アスペルギルス・オリゼー)、トリコデルマ属など落ち葉や枯れ木を分解する糸状菌などだ。
木や竹の腐朽には主に関わる糸状菌
樹木の腐朽菌
白色腐朽菌(しっとりふんわりと木材を柔らかくする)例:カワラタケ。椎茸などの食用キノコも白色糸状菌。
リグニン分解能力が高い → リグニンはセルロースでできた管状の繊維をがっちり固める接着剤として働く硬い成分。それを分解し、腐植を作るのに貢献。
分解が進むにつれ有機物やミネラルなど養分をゆっくり供給 → 長期的に土壌を豊かに保つ。
病原菌の抑制 → 一部の白色腐朽菌(例:シイタケ菌)は、他の病原性菌の繁殖を抑える働きもある。
土壌改良や分解しにくい有機物(木材や落ち葉)の分解に適している。
褐色腐朽菌(木材をカサカサボロボロともろくする)例:サルノコシカケ
木の主成分で管状の繊維の束をなすセルロースを優先的に分解 → 早く分解され、土壌の団粒構造を作りやすい。
土壌の通気性向上 → 崩れた木材が細かい粒状になり、通気性の良い土壌を作る。
速効性がある → 白色腐朽菌よりも短期間で木質を分解するため、早めの土づくりに役立つ。
木材チップや倒木を活用する場面で、早く分解を進めたいときに特に有効。
竹の腐朽菌(上記の糸状菌の他に以下のようなものが働く)
トリコデルマ属:竹をしっとりふかふかと柔らかくし、有害菌を防除し他の有用菌の成長を促す。
これらの糸状菌は、自然界で有機物を分解し、物質循環に重要な役割を果たす。
糸状菌の働きと農におけるメリット
リグニンやセルロースなど硬い有機物の分解を助け、ゆっくりと腐植が形成され長期にわたり土を豊かにする。
土壌の団粒化促進:糸状菌が分泌する菌糸外酵素や菌糸そのものが土の粒子をつなぎ、水はけや通気性の良い土壌を作る。
病害抑制:有用な糸状菌が土壌内に増えることで、根腐れ病などの病原菌(フザリウムなど)の繁殖を抑える効果が期待できる。特にトリコデルマ菌は土壌病害抑制に有効。
持続的な肥料効果:糠などの速効性の有機物と、竹や榾木のような遅効性の有機物を組み合わせることで、長期間にわたって土壌が豊かになる。
土壌細菌を活性化させて作物の健全な生育を助ける有機農法は、化学肥料や農薬の普及、労力や手間の問題で多くの地域で途絶えてしまっている。これらを再び農業に組み込むことで、林内に溜まる糸状菌まみれの有機物というお宝を積極的に活かし、農業と里山管理を両立できる可能性がある。 持続可能な農業にもつながるので、今後さらに注目されそうだ。畑ではなく都市においてよく見られるレイズドベッド・花壇にも応用され始めている。かなざわ森沢山の会も創成期には、森と農のつながりを意識し柴の市民農園を借りていたこともあるが、林床に積み上がる有機資材は我々で使うだけでは余りある。有機農法を試みようとしていて林床の有機資材を必要としている人々は、林を真の意味ですっきりさせたい我々にとって渡りに船だ。ドラム缶で焼却処分することが多い竹材は、ポーラス炭になる。穴を掘って埋めている。かつて豆類を入れる蓋付き一斗缶が会にもたらされた時には、竹の熾を封じて消し炭にしたことがあるが、その価値を十分には理解してもらえなかった記憶がある。有機農法が一般人に注目されている今、何らかのつながりが生まれたらおもしろい。
(2025年会報3月号第二面に掲載)
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